0、目次
1、自己紹介
2、「引用」って何?
3、できることの方向性は2つ
4、「引用」要件をみたすために、できること
5、「黙示の許諾」を得るために、できること
6、まとめ
7、編集後記
1、自己紹介
はじめまして、こんにちは。アキラです。
わたしは、このブログ以外にも、まとめサイトも運営しています。いわゆる「まとめ管理人」です。
まとめサイトでは必然的に、他人の著作物を利用することになるのですが、
いわゆる『WELQ問題』が起きてから、著作権法を勉強し直しました。
ネットデジタル化が進み、文章や画像、映像といったコンテンツの複製が容易になっており、
まとめ管理人のみならず、誰しも、Twitterやブログ等で気軽に他人の著作物を利用する機会が増えています。
今回は他人の著作物を許可なく穏便に(訴えられることなく)利用するために、私たちがすべきこと、できることは何か、
著作権法上の「引用」を中心に、今すぐ使えて役立つ情報を提供します。
2、「引用」って何
いきなりですが、法律の話からします。
「著作権法をうまく使えば、許可なく、他人の著作物を合法的に利用できるよ」
という話からです。
具体的にいうと、著作権法32条1項に定められている「引用」に該当させる形で他人の著作物を利用すれば、許可なく合法的に、他人の著作物を利用することができます。
著作権法の「引用」にあたる → 著作権者の許可がなくても、他人の著作物を合法的に利用できる。
さっそく著作権法32条1項を読んでみましょう。
著作権法第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。
この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
これが、「引用」に関する規定です。
「公正な慣行に合致?」
「引用の目的上正当な範囲内で?」
条文は日本語で書かれていますが、弁護士や法学部の人以外は、読もうとしても、文字が頭の中を素通りして、意味をよく読み取れないのではないでしょうか。
それが普通だと思います。
ネット上にある「引用」を解説している記事
ということで、ネット上で「引用」を解説している記事を探すことになるのですが、「引用」についての解説記事は、検索するとたくさんヒットします。
解説記事がありすぎて、どれを読んでいいのか困るぐらいです。
「引用」を解説する外部記事の紹介と、わたしの一言コメント
■記事紹介、1記事目
まずは公の機関が書いた記事から見てみようということで、文化庁のページに、「引用」の要件(※)が挙げられています。
※「要件」とは、聞き慣れないワードかもしれませんが、日常用語でいう「条件」と、だいたい同じ意味です。
なので「引用の要件」といったら、著作権法上の「引用」として認められるためにすべき条件、すべきこと、という意味になります。
■記事紹介、2記事目、
【まとめサイトの画像転載は違法?合法?】著作権のプロに聞く「コンテンツの守り方と使い方」:(リクナビNEXTジャーナル)
著作権の意味から、クリエイティブ・コモンズやTPPまで、著作権を取り巻く状況を、平易な言葉で説明しています。
■3記事目、あと2つだけです
キュレーションメディアを通じて、犯しがちな法律違反を掘り下げて分析しています。くわしい解説を読みたい人は、この記事がお勧めです。
■4記事目、ラストです!
キュレーションメディアの著作権問題、どこから権利侵害? 弁護士に聞く:(HRナビ by リクルート) (※後日、サイトごと消えてしまいました)
バズった記事。読んだ人もいるでしょう。
弁護士さんの、簡潔な受け答えの中に、頭の良さがうかがえます。個人的に好きな記事です。
特に最後の段落の
『キュレーションメディアやスクリーンショットの問題も、結局は「どのようなコンテンツ社会を受け入れ、また、望むのか」という問題と言えるかもしれません』
という言葉に同意します。
「引用」の要件は一義的には定まっていない
上記の記事をいくつか眺めてもらえばわかるのですが、「引用」の要件として挙げられているものが、記事ごとで結構バラバラです。
「引用と認められるには、○○と△△さえしてればいいんだ!」みたいに統一されてません。
こっちの記事では「引用」の要件として挙げられているものが、
別の記事では「引用」の要件として挙げられてなかったりします。
●「引用」の要件として挙げられる一例
・公正な慣行に合致すること
・報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内であること
・既に公表されている著作物であること
・明瞭区別性があること
・主従関係(付従性)があること
・引用を行う必然性があること
・出所明示すること
・引用する側も著作物であること
・利用目的、利用の方法や態様、利用される著作物の種類や性質、著作権者に及ぼす影響の有無・程度などを総合考慮
これら全ての要件をみたさないと、著作権法上の「引用」とは認められない!というわけではありません。
ケースバイケース。
つまり、「引用」の要件は、一義的には定まっていません!
「引用」の要件があいまいな理由
やや驚かれるかもしれませんが、どうすれば「引用」にあたるのか、法律の専門家も明確に言いにくいのが、現在の法の現状です。
もちろん「これとこれをしていれば、まあ『引用』にあたるでしょう」までは言えます。
ですが、それ以上確信的に、「絶対に、これは『引用』にあたる!」とか、
逆に「これは絶対に『引用』にあたらない!」とはなかなか言いにくいのが、現在の「引用」をめぐる法解釈の相場になっています。
これはさきほど述べたように、「引用」の要件が明確に一義的に定まっていないことが原因です。
明確な「引用」の要件を立てられない理由
「引用」の要件が一義的に定まっていない理由は、
「全ての事例において、妥当な結論を導けるような、『引用』の要件が、いまだ確立されていないから」
と考えられます。
「『引用』の要件は、○○と△△である」と明確に定めてしまうと、その明確に定めた要件では、妥当な結論を導けないケースが出てきます。
妥当な結論が導けない要件は、実際の裁判では使えません。
なので、多くの事例で妥当な結論を導くために、「引用」の要件を、一義的に定めずに、わざとあいまいにしているのです。
要件をあいまいにしておけば、裁判所の裁量によって、いかようにも、どの事例においても「妥当」な結論を導くことができます。
本来、法の「要件」は明確でなければダメ
「引用」の要件に限らず、法律の適用要件があいまいだと、人びとの予測可能性を奪い、行動の自由が阻害されるので、法学的にイケナイこととされます。
ですが、ネットデジタル化など、社会の急激な変化に、著作権法が、具体的には「引用」の要件をめぐる、法整備、法解釈が追い付いていない現状といえるでしょう。
●「引用」にあたるかの判断はグレー
そのため、くり返しになりますが、
「『引用』といえるには、○○と△△をしてさえいればOK」
と簡単に決めつけることは出来ません。
「引用」しようとするたびに、
・「引用」に関する過去の裁判例や、
・学者・弁護士といった専門家の話を参考にし、
「引用」に該当するか否かを判断をする必要があります。
このように「引用」に該当するのか否かを、事前に判断することは、かなり面倒な知的作業になります。
しかも本当に著作権法上の「引用」に該当するか否かは、裁判になって、裁判所の判決が確定するまで、実は誰にも分かりません。
京大の『ボブ・ディラン引用事件』も、「引用」にあたるか否か、ハッキリと事前に判断できないからこそ起きた問題といえます。
JASRAC会見「京大HP歌詞は引用。請求しない」…16年度徴収額1118億円
https://www.bengo4.com/internet/n_6135/
この「引用」の要件があいまいであり、「引用」に該当するか事前にハッキリと判断しづらいという点が、
「引用」を理解することを、難しくしている一因となっています。
●「引用」のポイント
ここまで著作権法の「引用」にまつわる、簡単なイントロダクションをしてきました。
そろそろ、記事の本題に入ろうと思います。
この記事は、タイトルにもあるように
「他人の著作物を、合法的に、もしくは穏便に、利用するため、具体的にどのようなことをすればいいのか?
著作権法の『引用』を中心に考えてみよう!」
をテーマとしています。
「具体的にどうすれば、他人の著作物を許可なく、穏便に利用できるか」、具体的な行動がテーマです。
なので、これ以上、抽象的な「引用」に関する法学の説明は避けますが、最後に、総論的な話を、3つのポイントだけ話させてください。
判例・学説の大まかな方向性をつかむための、3つのポイント
「引用」の要件をめぐる、現在の判例・学説の趨勢を、以下3つのポイントとしてまとめました。
ポイント1:「引用」の要件を、どのようなものにするかで、判例・学説は錯綜している。
もっとも、考えの方向性としては、様々な要素を総合的に考える立場が優勢となっている。
つまり、現在の主流の考え方は、「引用」にあたるか否かは、総合的に判断するというもの。
ポイント2:裁判所は、「引用」の要件について、『二要件』説から、様々な要素を考える『総合考慮』説へと、シフトしている。
ここにいう『二要件説』とは、①明瞭区別性と②主従関係を、「引用」の要件とする説。
一方、『総合考慮説』とは、「引用」にあたるか否かは、他人の著作物を利用する側の利用目的のほか、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などが総合考慮されなければならないとする説。
ポイント3:総合考慮説に立つ裁判所が、どのような要素を、どのように総合的に考慮するのかを知るには、実際の裁判所の判断(裁判例)を、たくさん勉強して学ぶしかない。
3つのポイントを挙げましたが、一言で言えば
「『引用』かどうかは、様々な要素を総合的に考えるんだな~」
という理解でOKです。
「引用」にあたるか否かは、
「これとこれだけを考える!」ではなくて、
「さまざまな要素を全体的に、総合的に!」判断します。
3、できること
以上の前提知識を踏まえたうえで、他人の著作物を合法的に、もしくは穏便に利用するために、私たちができることを考えていきます。
著作権者から明示的に「許諾」を得る以外で、合法的に穏便に、他人の著作物を利用するためにできることには、おおまかに2つの方向性があります。
1つ目の方向性:「引用」
まずは、いままで説明してきた、著作権法の「引用」に該当させる努力をする方向性です。
「引用」に該当させれば、合法的に堂々と、許可なく、他人の著作物を利用できるので、正攻法のやり方といえます。
もっとも、さきほど述べたように「引用」にあたるかは、事前に判断することが難しいわけです。
2つ目の方向性:「黙示の許諾」
そこで、もう一つのやり方として、たとえ「引用」に該当せずとも、著作権者を怒らせずにお目こぼしを受けるような、いわば黙認を受ける形で、他人の著作物を利用するやり方です。
「引用」にも該当せず、明示的な「許諾」もない代わりに、法律用語的に言えば「黙示の許諾」を得られるような、いわば、グレーゾーンを利用したやり方です。
以下では、「引用」と「黙示の許諾」、それぞれに該当させるためには、具体的にどうすればよいのか。
前述した「引用」の知識とともに、まとめサイト管理人として日々養った知恵を使って、具体的な方法を列挙していきます。
4、「引用」に該当させるため、できること
企業の公式サイトや、個人が確実に適法化したいときに、参考にしてください。
著作意見法上の「引用」に該当させるために、以下のことをできるだけします。
・【明瞭区別性】をみたすようにする。
・【主従関係】に気をつける。
・【著作権者に及ぼす影響の有無・程度】を考慮する。
・【公正な慣行】がある場合はそれに従う。
・引用の範囲を【必要最小限度】にする。
・【引用を行う必然性】に気を配る。
・【出所明示義務】を果たす。
以下、順に説明していきます。
①【明瞭区別性】をみたすようにします。
【明瞭区別性】とは、「ここからここまでが他人の著作物ですよ」と、一見して分かるようにすること、です。
【明瞭区別性】の文字通り、他人の著作物と、自分の著作物とが、「明瞭」に「区別」されていれば、この【明瞭区別性】はOKです。
【明瞭区別性】をみたす方法
【明瞭区別性】をみたす方法には、いろいろなやり方があり、「このやり方を、必ずしなければいけない」といった唯一無二の方法はありません。
いろいろなやり方があるのですが、たとえば、他人の文章を利用する場合なら、「引用」する箇所を
・カギ括弧でくくったり、
・フォントを変えたり、
・改行したり、
すれば、基本的に【明瞭区別性】はみたされます。
ブログの場合、お使いのテンプレートにもよりますが、blockquoteで他人の著作物を囲んでやれば、通常【明瞭区別性】をみたすデザインに自然となるはずです。
例:<blockquote>ここに他人の著作物を入れる</blockquote>
【明瞭区別性】をみたす、1つの例
【明瞭区別性】をみたす具体例をひとつあげると、以下の数行は、【明瞭区別性】をみたす例と言えます。
実際は、ここに他人の文章を入れます。他人の文章と私が書いた文章が、一見して区別できますよね?このようにして【明瞭区別性】をみたしてやるわけです、はい。
どのような方法であれ、自分のコンテンツと他人のコンテンツをハッキリと区別できるのであれば、【明瞭区別性】はOKです。
このように【明瞭区別性】をみたしてやることは、それほど難しくないと思います。
次は、②【主従関係】に気を付けます。
【主従関係】とは、自分のコンテンツの量が多く、引用する他人のコンテンツが少ないように、引用する分量を調整することです。
自分のコンテンツが「主」で、他人のコンテンツが「従」だから、【主従関係】。
ようは、「利用する他人のコンテンツの量は、なるべく少なくしろ」ってことです。
たとえば、他人の文章を1ページにもわたって引用しておきながら、一言だけ自分のコメントを添えるという形では、この【主従関係】をみたさない可能性があります。
■厳密に言うと…
もっとも、裁判所はこの【主従関係】について、じつは、単純に量を比較するだけでなく、複雑な判断をしています。
※裁判所が【主従関係】について、複雑な判断をしているという学者の指摘
「主従関係」は引用されるものと引用するものとの分量の比較だけで決定できるものではなく、引用しあるいは引用される著作物の性質、引用の目的・態様等の様々な要素を考慮する必要がある。
現にその後の多くの下級審判決はこの主従関係という要件の中に、様々な要素を織り込んで結論を導いているように見える。
中山信弘『著作権[第2版]』323頁
このように【主従関係】の判断は、実際に裁判となったら、難しい判断が必要になるのですが、まずは、「量を比較して考える」のが、明確で良いと思います。
とにかく、他人の著作物を利用する量はなるべく少なくする、ということです。
③【著作権者に及ぼす影響の有無・程度】を考慮します。
【著作権者に及ぼす影響の有無・程度】とは、他人の著作物を利用することで、著作権者に大きな悪影響を与えるものは、「引用」と認められにくい、ということです。
たとえば、他人のコンテンツを丸々全部をコピーするような「デッドコピー」は、前述した【主従関係】の観点からもダメですが、コンテンツの売り上げを減らすといった、著作権者に経済的な悪影響を与えかねないので、「引用」とは認められにくくなります。
たとえば、以前、国会でも問題としてとりあげられた漫画村などは、デットコピーなので、「引用」とは認められないでしょう。
(ちなみに「俳句」など、そのすべて(五・七・五の十七音)を利用しなければ、利用する意味があまり無い著作物については、別途考慮が必要になります)。
とくに発売直後のコンテンツを許可なく利用しようという場合は、注意が必要です。
通常、コンテンツの売上の大部分は、コンテンツの発売直後の期間とされますから、発売直後の利用は、著作権者に経済的悪影響を与えないように、とくに慎重な配慮が必要になります。
④引用の仕方に【公正な慣行】がある場合はそれに従います。
たとえば、学術論文の世界では、分野ごと、引用の仕方になんらかの慣行がある場合があるでしょう。
そのような慣行があるのであれば、素直にそれに従います。
⑤引用の範囲が【必要最小限度】であること
じつは、この引用の範囲が【必要最小限度】であることは、「引用」の要件としないとする説も、有力です。
なので、それほど厳密に考える必要はありませんが、なるべく引用する範囲を少なくした方が、前述した【主従関係】の点からも、「引用」は認められやすくなります。
ということなので、他人の著作物を利用する範囲は、たとえ【必要最小限度】でなくても、とにかく「少なくする」を心がけましょう。
⑥【引用を行う必然性】に気を配ります。
あくまで、文脈に即した形で、他人のコンテンツを利用する必要があります。
たとえば、他人の著作物である画像を、全く文脈とは関係なく、単にアイキャッチ画像として利用することは、この【引用を行う必然性】がないので、「引用」として認められません。
⑦【出所明示義務】を果たすよう、出典元をしっかりと明示します。
他人の著作物を利用する場合は、どこから引用したのか、その出典元も明示します。
正確にいえば、この出所明示義務(48条1項1号)は「引用」の要件ではないので、明示しなくても、「引用」は直接的には否定されません。
ですが、出典元をしっかりと明示しないと、出所明示義務違反(122条)になったり、前述した【明瞭区別性】をみたさないことによって、「引用」が否定される可能性もありますので、出典元はしっかりと示しておきましょう。
「引用」の要件まとめ
もう一度まとめますと
・【明瞭区別性】をみたすようにする。
・【主従関係】に気をつける。
・【著作権者に及ぼす影響の有無・程度】を考慮する。
・【公正な慣行】がある場合はそれに従います。
・引用の範囲が【必要最小限度】にすること。
・【引用を行う必然性】に気を配る。
・【出所明示義務】を果たす。
以上をできる限り守れば、多くのケースで、著作権法上の「引用」として認められ、他人の著作物を、許可なく合法的に利用できるはずです。
繰り返しになりますが、「引用」の要件はあいまいで、事前に確定的に判断することは難しいです。
「これだけやっていれば、必ず『引用』に該当する」とは言いきれません。これは、「引用」の性質上、仕方ありません。
5、「黙示の許諾」を得るためにできること
ここまで、著作権法上の「引用」に該当させるために、私たちができることを述べました。
ここからは、万が一「引用」に該当せずとも、著作権者から「お目こぼし」を受けるためにできることは何か。
法律用語的に言えば、「黙示の許諾」を得るためにできることを検討します。
「黙示の許諾を得る」って何?
まずは言葉の定義から。
この記事では、「黙示の許諾を得る」とは、
著作権者を怒らせずにお目こぼしを受けるような、いわば黙認を受ける形で、他人の著作物を利用すること、
の意味で、用いることにします。
「黙示の許諾」 ≒ お目こぼし ≒ 黙認
という関係です。
明示的に「許諾」を得るのではなく、著作権者から「まっ、いいか~、それぐらい」と黙認される形で、著作物を利用する形態です。
この定義はこの記事限定のものです。
この点、厳密に考えれば、「黙示の許諾」と「お目こぼし」は同義ではなく、意味に齟齬があります。
「お目こぼし」は消極的な語感で、「黙示の許諾」はより積極的な感じがしますね。
べつの言い方をすれば、「お目こぼし」は「クロに近いグレー」で、「黙示の許諾」は「シロに近いグレー」とも言えそうです。
おそらく、著作権法の「引用」に関連する「黙示の許諾」については、学説や判例の議論が、それほど固まっていない分野だと(私が知る限りでは)思います。
なので、まずはじめに、わたしが勝手に「黙示の許諾」定義づけました。定義しないと議論ができないからです。
分かりやすく考えるために、この記事では、「黙示の許諾」と「お目こぼし」を同じ意味として用います。
「黙示の許諾」をあてにして良い場面・悪い場面
「黙示の許諾」とは、著作権者と、いわば「阿吽の呼吸」が必要となります。
ですので、
企業が他人の著作物を利用する場合や、
オリンピックのロゴのコンペなど公式イベントの場合は、
「黙示の許諾」をあてにすることは、不確実でリスクが高い行為なので止めるべきでしょう。
そのような場合は、著作権者の「明示的な許諾」を得るか、しっかりと「引用」に該当させる努力をするべきです。
ですが一個人が、ブログやTwitterなどで、他人の著作物を利用する場合は、これから述べる「黙示の許諾」を得るためにできることは、参考になるはずです。
なぜ著作権者が怒るのか
「黙示の許諾」を得るためにできることは、反対から考えると分かりやすくなります。
「黙示の許諾」「お目こぼし」の反対は、「怒り」です。
そもそも、なぜ著作権者が、著作物を他人に利用されて「黙示の許諾」をしない、つまり「怒る」のかといえば、著作権者にメリットがないからです。
この点、永江一石さんが、参考になる記事を書いていました。
「なぜWebスパムサイトは事前に使用許諾を取らないのか」の真理
http://blogos.com/article/201589/
この記事で、永江一石さんは、著作権者のメリットとして以下のものを挙げています。
1、著作権料が入ってくる
2、評判やイメージが上がる
3、大量のアクセスが流入する
これを参考にしつつ、著作権者を怒らせないためにできること、つまり、「黙示の許諾」「お目こぼし」を受けるためにできることを、これから考えてみます。
「黙示の許諾」を得るためにできる、3つのこと
他人の著作物を許可なく穏当に利用するため、著作権者の「黙示の許諾」を得るべく、私たちができることは、おおまかに3つ考えられます。
・著作権者に何らかの経済的メリットを与える。もしくは、経済的損害を与えない。【お金】
・著作物・著作権者の評判やイメージを上げる。【評判】
・著作権者が運営しているサイトへのアクセスを増やす。【アクセス】
お金、評判、アクセスの3つです。
【お金】著作権者に経済的メリットを与える
この記事では「著作権料」の話はしません
先ほど紹介した永江さんの記事では、「1、著作権料が入ってくる」と、「著作権料」という形での金銭の授受を想定しています。
ですが、他人の著作物を利用する側が「著作権料」を支払うとケースなると、「明示的な許諾」を得て他人の著作物を利用する話になります。
「明示的な許諾を得る」話は、この記事の主旨とはズレますので、今回「著作権料」の話はしません。
「著作権料」以外で、著作権者に経済的メリットを与えるには?
まず、「黙示の許諾」を得るには、とにかく積極的に著作権者へ経済的メリットを与えることが大切です。
あなたが他人の著作物を利用することで、その著作物の売り上げ増加に繋がるような形で利用するのです。
具体的な方法としては、利用しようとしている著作物が、アマゾンや楽天といった大手ネットショップで売られているのなら、それへのリンクも忘れずに付記しましょう。
たとえば、自分のブログで、漫画「妻に恋する66の方法」の書評を書くとします。
ブログの記事で、漫画の画像や文章を利用したら、ちゃんとアマゾンへのリンクも貼っておくのです。
このように。
講談社 (2018-05-23)
売り上げランキング: 34,894
このようなリンクがあれば、記事を見た人の中には、漫画を買う人も出てくるでしょう。
いわば、あなたが「他人の著作物を売るセールスマン」になるのです。
たとえ、利用する著作物がネットショップで販売されていなくても、同じ著作権者のほかの著作物がネットショップで売られていないかを検索し、あればそれでも構わないので、リンクを付記しておきましょう。
このように、たとえ「引用」に該当しなくても、
あなたが他人の著作物を利用する(拡散する)ことにより、
著作権者にも経済的メリットがある(商品が売れる)関係にすることは、
著作権者を怒らせないため、ひいては「黙示の許諾」をしてもらうため、とても大切なことです。
著作権者への経済的損害を最小限にする
次は、著作権者に経済的損害をいかに与えないか、を考えます。
【お金】
著作権者に経済的メリットを与える ←いま、話した
著作権者に経済的損害をいかに与えないか ←これから話す
著作権者に経済的メリットを与えるのが、積極的行為なら、
著作権者に経済的損害を与えないのは、消極的行為になります。
他人の有料コンテンツを利用する場合に気をつけること
有料で販売されている他人の著作物を利用する場合に気をつけるべきこと。これは常識で考えます。
■発売直後は要注意
コンテンツの売り上げは、通常、発売直後の期間で大部分を占めるとされます。
ですので、有料コンテンツを利用する場合は、発売から一定期間経過するのを待ってから利用するなど、著作物の売り上げを阻害しないよう配慮します。
もちろん、逆に「発売直後にこそ、他人の著作物を利用することで、その著作物の売り上げ増加に貢献できるんだ」という考え方もできるでしょう。
いずれにせよ、有料コンテンツを発売直後に利用する場合、より慎重な配慮が必要になります。
■有料コンテンツの利用は、なるべく少ない範囲にとどめる
もちろん有料コンテンツの利用は、発売からどんなに時間が経過していても、必要最小限の利用にとどめるのが、「黙示の許諾」を得るための鉄則です。
コンテンツを丸々パクる、「デッドコピー」は厳禁です。
■発売前の利用は絶対NG
なお、いわゆる「漫画のネタバレ」など、正規の販売前に、何らかの形で流出したコンテンツは絶対に利用しないでください。
なぜなら、発売前の流出は、コンテンツの売り上げを著しく阻害しますし、著作権者を激しく怒らせてしまいます。
無料で公開されている著作物を利用する場合に気をつけること
無料で公開されているものは、基本的には、著作権者への売り上げを阻害しないようにといった経済的な配慮は不要です。
■ホントに無料か?
もっとも、無料で公開されていても、気を付けることはあります。
一見無料であっても、著作権者のサイトにアクセスが集まることによって、広告収入で利益を得ているなど、実質有料なものもあります。
その場合は有料コンテンツと同様の配慮が必要です。
著作物が公開された直後が、通常一番アクセスが集まりやすいですから、公開後、一定期間経過した後に利用するなどの配慮が必要です。
以上で、「黙示の許諾」を得るためにできることの1つめ
「著作権者に何らかの経済的メリットを与える。もしくは、経済的損害を与えない」
を終えます。
まとめると
・「著作権料」以外で、著作権者に経済的メリットを与える
→Amazonや楽天など、商品販売ページへのリンクを貼る
・著作権者への経済的損害を最小限にする
→コンテンツの発売直後の利用は、とくに慎重に配慮する
→利用する量は、可能な限り少なくする
これらをすることにより、著作権者の経済面に配慮します。
著作物・著作権者の評判やイメージを上げる
次は、「黙示の許諾」を得るためにできることの2つめ
「著作物・著作権者の評判やイメージを上げる」
について話します。
これには
・出典元を明示する
・批評内容に気をつける
方法が考えられます。
まずは、ハッキリと出典元を示すことが重要です。
とにもかくにも、出典元を明示しましょう。
出典元を示さなければ、見た人がどんなに素晴らしい作品と感じても、著作物・著作権者の評判向上にはつながりにくいからです。
例
この絵を見て、見た人が面白そうだなと思っても、出典元を示さないと、この漫画を買ったり、ツイッターで「この漫画面白そう」とつぶやいたり、次のアクションを起こしづらくなります。
一方、ちゃんと出典元を示すことで、「著作物・著作権者の評判やイメージを上げる」ことにつながります。

↑このように、出典元を明示します。
出典元を示せば、見た人は
「ああ、これは『福満 しげゆき』という人が書いた『終わった漫画家(2)』の一場面なんだな」
と、はっきりと理解できます。
そもそも出典元を示すことは、「引用」の要件をみたすため、正確には、「出所明示義務」を果たすため必要なことです。さらに著作権者を怒らせず、「黙示の許諾」を得ることにもつながるので、出典元はちゃんと明示しましょう。
まして、出典元を示さないばかりか、他人の著作物を自分のものと偽るのは言語道断です。著作権者を怒らせるので、絶対にやめましょう。
批評の内容にも気を配る。
他人の著作物を利用しつつ、その著作物・著作者を批評する場合、その批評内容にも気を付けます。
「許可なく著作物を利用させてもらう」という引け目が、こちらにある以上、著作権者の機嫌を損ねないよう、一定程度は、著作権者への「ご機嫌取り」も必要になるかもしれません。
この点、著作権法上の「引用」ならば、思う存分、辛辣な内容の批評も、堂々とすることができます(ただし、名誉棄損などは成立しうる)。
そもそも、「引用」は、著作権者の許諾を得にくいような言論が、許諾を得られないことを理由に萎縮することは、文化発展の促進の観点からあってはならないことを、その趣旨の一つとして定められた条文です。
ですが、「引用」に当てはまるか微妙なグレーゾーンに立つ場合(「黙示の許諾」を当てにする場合)は、そう強気にもいってられません。
どうしても、グレーゾーンであるという弱みがこちらにある以上、著作権者や著作物への、歯に衣着せぬ批判は避けたほうが無難でしょう。
・「引用」にあたる → 著作権者に遠慮すること無く批評できる。
・著作権者の「黙示の許諾」をあてにする → 著作権者を怒らせないよう、批評内容に気を配る
「黙示の許諾」を得ようとする場合は、著作物・著作権者のことを、一切批判できないとは言いませんが、より慎重な物言いが必要になります。
以上が、「黙示の許諾」を得るためにできることの2つめ
「著作物・著作権者の評判やイメージを上げる」
でした。
アクセス
「お金」「評判」ときて、著作権者のメリットの三つ目は、「アクセス」です。
あなたが他人の著作物を利用することで、その出典元へのアクセスを増やすのです。
いわば、あなたが著作権者の「宣伝」役になることで、著作権者のサイトへの訪問者が増えるのならば、著作権者の「黙示の許諾」を得やすくなるでしょう。
著作権者への「アクセス」を増やす方法には、
・出典元へリンクを貼る
・リンクはnofollowにしない
・出典元に限らず、リンクをたくさん貼る
方法が考えられます。
出典元にアクセスが行くよう、リンクを目立つ形で貼ります。
まずは当たり前のことかもしれませんが、他人のサイトから、文章や画像を利用するときは、出典元へリンクを貼りましょう。
その際、リンクをただ張るだけでなく、リンクを目立つデザインにして、クリックされやすいよう工夫することは、アクセスを実際送るのに有効だけでなく、著作権者へのアピールにもなります。
×リンクの悪い例(文字が小さく、灰色で見にくい)
今の日本に足りないのは、お金を稼ぐ力ではなく使う力
○リンクの良い例(文字が大きく、リンクが目立つ)
今の日本に足りないのは、お金を稼ぐ力ではなく使う力
このように出典元へのリンクは目立つ形で貼りましょう。
nofollowはダメ
SEO対策として、外部サイトへのリンクはすべてnofollowにしている人も、(最近は少なくなっていると思いますが)いらっしゃるかもしれません。
ちなみに、リンクをnofollowにする主な理由は、リンク先にSEO効果を与えないためです。
もっとも、他人の著作物を利用する場合、出典元へのリンクをnofollowにすることは、著作権者を怒らせかねません。
出典元へのリンクをnofollowにしてはダメです。
出典元以外にもリンクを貼る
出典元へのリンクのみならず、たとえば著作権者がブログを運営していて、そこに良い記事があれば、出典元以外にも、いくつかリンクを貼っておくと、著作権者へ好印象を与えることができると思います。
他記事へのリンクの例
こちらの記事もおススメ:「終戦か、敗戦か」問題。わたしが「終戦」派に変わった理由
著作権者に「自分のファンなのかな」と思ってもらえれば、「黙示の許諾」を得やすくなるはずです。
削除要請
ここまで全てしても、著作権者を怒らせることはあります。
著作権者に強い信条があったり、莫大な費用をかけたコンテンツを利用してしまった場合がそうです。
著作権者からの削除要請があれば素直に応じるのが賢明です。
「引用」に当たれば、合法ですので著作権者からの削除要請は拒否できるのですが、「引用」にあたる自信がない場合は素直に応じます。
削除する場合は、一言謝罪すると丁寧です。
削除要請を受けられように、ブログに「お問い合わせ欄」を設置しておくことも忘れないようにしてください。
「黙示の許諾」を得るためにできることまとめ
以上をまとめると、「黙示の許諾」を得るためには、
・【お金】
・【評判】
・【アクセス】
の観点から、
・商品へのリンクも貼るなど、著作権者に経済的メリットを与える
・著作権者の売り上げを減らさない配慮をする
・ハッキリと出典元を示す
・批評内容に気を付ける
・リンクをしっかり張ってアクセスを送る
・ほかの記事にもリンクを張るなどして著作権者への好意を示す
・著作権者からの削除要請には素直に従う
これらをできる限りすることです。
いずれにせよ「黙示の許諾」を得るために、著作権者の経済的利益を害さないよう工夫することがとくに大切です。
利用されたほうがむしろ儲かるならば、著作権者が気難しいといったことがない限り、ほとんどのケースで、怒られない、「黙示の許諾」が得られるはずです。
6、まとめ
とりあえず、ネット上で読める量になんとか収めつつ、なおかつ、実際に役立つ情報を書けたのではないでしょうか。
上記に挙げたことをしておけば、すくなくとも個人は、他人のコンテンツを、明示的な許可がなくても、合法的に穏便に利用することができると思います。
7、編集後記
「引用」はそれだけで本1冊書けてしまうぐらいに奥が深い分野です。
さらに詳しく知りたい方は、「引用・転載の実務と著作権法」をお勧めします。
一般の書店で手に入る本では、「引用」についてトップクラスの詳しい解説がなされています。
この本以上に「引用」の詳細な解説が欲しいとなると、読みこなすためには専門的な法学知識が必要になる、学術書や論文になってしまうと思います。
もう一つおすすめなのが、
「クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本」
という本です。
クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本
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こちらは「引用」に特化した本ではないのですが、実際に、クリエイターが遭遇しそうな著作権法の問題がだいたい網羅されています。
噛み砕いて書かれた本なので、初心者が読む一番初めの本としては、こちらのほうが良いと思います。
その代わり、すでにある程度の著作権について知識を持っている方にはやや物足りない内容かもしれません。